介護士 正社員 vs 派遣 vs パートで年収はどう違う — 時給1,800円派遣の手取り逆転と社保・有給の隠れコスト
介護業界では、求人サイトを開くと「派遣の介護士 時給2,000円」「パート介護士 時給1,500円」という数字が並びます。一方で正社員の月給求人を見ると20〜23万円で、ボーナスを含めても年収300〜400万円帯。一見すると派遣・パートのほうが時給ベースで圧倒的に有利に見えますが、年収・手取り・長期累積の3軸で見ると 状況によっては正社員が逆転する 構造があります。
本稿では、3つの雇用形態の年収を 月給×賞与×処遇改善加算×社会保険料×有給×退職金 の全コスト構造で比較し、どの状況でどれが得かを厚労省「介護労働実態調査」(令和5年度)・労働者派遣法・2024年度介護報酬改定告示の一次データで分解します。
単純な額面年収の比較 — 派遣の時給が圧倒的
まず、3形態の 額面年収 だけ並べると、派遣の時給単価が突出して高く見えます。
| 項目 | 正社員 | 派遣 | パート |
|---|---|---|---|
| 月給(基本給+資格手当) | ¥21〜25万 | — | — |
| 時給 | (月給÷160h) ≈ ¥1,300〜1,560 | ¥1,500〜2,300 | ¥1,200〜1,600 |
| 賞与 | 年2〜4ヶ月分(¥40〜100万) | なし | なし(一部「ミニボーナス」あり) |
| 処遇改善加算 | 月¥1〜3万(法人による) | 派遣会社経由で薄め | 月¥0.5〜1万 |
| 額面年収(目安) | ¥330〜450万 | ¥300〜480万 | ¥220〜340万 |
正社員の月給が¥23万円、賞与が3ヶ月分の場合、年収換算は 23万×12+23万×3=¥345万 で、これに各種手当を加えて¥380〜420万円帯が標準です。
派遣で時給¥1,800・週40時間・年52週稼働すると、額面年収は 1,800×40×52=¥374万。賞与なしですが、稼働時間を維持できれば正社員と同等の額面に到達します。時給¥2,000なら ¥416万、時給¥2,200なら ¥457万 で、正社員上位層を超えます。
パートは時給¥1,400・週20時間勤務で 1,400×20×52=¥146万 が標準です。フルタイム勤務(週40時間)に切り替えれば派遣と同等になりますが、雇用契約上の最大稼働時間が制限されるケースが多く、額面年収では派遣に劣後します。
社会保険・厚生年金で月¥3〜5万円の差
額面の数字に隠れた最大の論点が 社会保険料の労使折半 です。これは雇用形態によって扱いが大きく異なります。
正社員 健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の4種が 労使折半 で天引きされます。月給¥23万円の場合、社員負担分(健康保険¥11,500+厚生年金¥21,000+雇用保険¥1,400=月¥33,900)が天引きされる代わりに、会社負担分の同額(月¥33,900)が会社の経費 として支払われます。年間にすると 約¥40万円分が会社負担で社会保障に充てられる 計算で、これは間接的に手取りを下支えしています。
派遣 派遣会社経由で社会保険に加入します。労使折半は派遣会社が負担しますが、その分時給に「内訳」として反映されているケースが多く、実質的には派遣社員の時給から先に引かれた状態です。時給¥1,800のうち、派遣会社が手数料・社保負担分として 約20〜30% を抜いており、実際に介護士本人に渡るのは¥1,260〜1,440円相当という見方もできます(派遣会社の利益構造による)。
パート 週20時間以上・月¥8.8万円以上・1年以上見込みの3条件を満たすと社会保険加入義務が発生します(2024年改定で従業員51人以上の事業所まで拡大)。それ未満は社会保険加入なしで、健康保険は配偶者の扶養に入るか国民健康保険、年金は国民年金になります。社会保険なしのパートは月¥3〜4万円分の社会保障負担が浮く一方、将来の年金額・遺族年金・障害年金が薄くなります。
退職金・福利厚生で年¥10〜30万円相当の差
正社員と派遣・パートの最大の差が、退職金と福利厚生の「累積価値」です。
正社員
- 退職金制度(中小企業退職金共済 or 法人独自制度): 勤続10年で¥150〜350万円相当の支給
- 福利厚生: 健康診断費用負担、慶弔休暇、互助会、旅行積立、住宅手当など
- 教育訓練: 介護福祉士・ケアマネの取得支援(費用負担+試験休暇)
- 育児休業給付・介護休業給付の取得実績が法人内で蓄積、復帰後のキャリア継続性が確保されやすい
これらを年換算すると 年¥10〜30万円相当の隠れ給与 に相当します。
派遣 派遣会社の福利厚生制度は派遣会社により大きく異なり、大手(リクルートスタッフィング、テンプスタッフ、パソナ等)は健保組合・退職金前払い・有給など整備されていますが、中小派遣会社は最低限の社会保険のみのケースもあります。退職金は基本的になく、有給も法令上の最低限(週40時間勤務で年10〜20日)です。
パート 週20時間以上勤務であれば法令上の有給と最低限の社会保険は付きますが、退職金・賞与・教育訓練費用負担はほぼ期待できません。介護福祉士・ケアマネの取得支援も、パート扱いだと対象外になる法人が多めです。
処遇改善加算の取り分が違う
2024年度介護報酬改定で一本化された 介護職員等処遇改善加算 は、事業所単位で支払われ、職員に分配される仕組みです。この分配ルールが雇用形態で変わります。
正社員(常勤) 加算原資の 最優先配分対象 で、月額¥2〜4万円相当が手当として加算されるのが標準です。法人によっては年間賞与に組み込まれるケースもあります。
派遣 加算は事業所(=派遣先)に支払われるため、派遣社員は 直接の対象外 です。間接的に派遣会社経由で還元されるケースもありますが、額は薄め(月¥0.5〜1万円相当)です。
パート 常勤換算(週32〜40時間勤務換算)で正社員の50〜80%相当が分配されるのが標準です。月¥1〜2万円相当の加算手当が乗ります。
これは小さく見えますが、年間にすると 正社員と派遣で¥20〜30万円の差 に膨らみます。
全コスト込みの実質年収比較
以上を踏まえて、3形態の 実質年収(=額面+社保会社負担+退職金積立+福利厚生) を試算します。前提は介護福祉士・経験5年・週40時間相当稼働です。
| 項目 | 正社員(月給23万+賞与3ヶ月) | 派遣(時給¥2,000) | パート(時給¥1,500週20h) |
|---|---|---|---|
| 額面年収 | ¥395万 | ¥416万 | ¥156万 |
| +処遇改善加算 | +¥30万 | +¥10万 | +¥10万 |
| +社保会社負担(隠れ給与) | +¥40万 | (時給に内包済み) | (なし or 部分) |
| +退職金積立(年換算) | +¥15万 | ¥0 | ¥0 |
| +福利厚生(年換算) | +¥10万 | ¥3万(派遣会社次第) | ¥0 |
| 実質年収合計 | ¥490万 | ¥429万 | ¥166万 |
派遣の時給¥2,000は額面では正社員を上回りますが、退職金・社保会社負担・福利厚生を含めた実質では 正社員のほうが¥60万円ほど多い ことになります。派遣で正社員を実質ベースで超えるには、時給¥2,400以上が必要な計算です。
どの状況でどれを選ぶか — 4タイプ別判定
実質年収だけで判断すると正社員が有利ですが、ライフスタイル適合性を含めると話が変わります。
タイプA: 20〜30代キャリア構築期 → 正社員 社会保険完備・退職金積立・教育訓練支援の累積価値が大きく、長期キャリア構築には正社員が圧倒的に有利。介護福祉士・ケアマネの資格取得支援も法人負担で受けられる。同じ法人に5〜10年在籍することで第6〜7段階の管理職ルートにも乗れる。
タイプB: 30〜40代の家計補助・育児両立期 → パート(週20〜30時間) 配偶者の扶養範囲内で働きたい、子どもの幼稚園・小学校の時間に合わせたい場合、パートで時給¥1,500〜1,700帯の高単価を狙うのが現実的。社会保険加入の年¥130万円(扶養範囲)を超えると配偶者の所得控除が減るため、扶養範囲ギリギリの設計が必要。
タイプC: 50代以降のセミリタイア期・短期高収入期 → 派遣 退職金積立・長期キャリアが既に確保できている層、もしくは短期間で集中的に稼ぎたい層には派遣が合う。時給¥2,000以上の都市部派遣案件で、月20日稼働すれば月収¥32万円・年収¥384万円帯を確保できる。介護施設からの直接雇用打診も多く、気に入った職場で正社員化することもある。
タイプD: 副業として週末だけ介護をしたい → スポット派遣・単発バイト 本業がある状態で介護資格を活かして副収入を得たい場合、土日の単発派遣案件(時給¥1,800〜2,200円)が適している。月8日稼働で月¥12〜14万円、年¥150万円帯の副収入。週末稼働なので本業との両立がしやすい。
派遣→正社員転換の選択肢
近年増えているのが、 「派遣で1〜2年働いてから正社員転換」 のパターンです。介護施設は深刻な人手不足で、派遣として現場に入った人材を正社員化するモチベーションが高く、紹介予定派遣・直接雇用打診が日常的に発生します。
このルートのメリットは、派遣期間中に 複数の施設・法人を経験 してから自分に合う職場を選べることです。新卒・第二新卒で正社員入社すると、初任配属の施設で5年以上勤続するのが暗黙のルールになりがちで、ミスマッチがあっても辞めにくい構造があります。派遣スタートなら3〜6ヶ月で職場の実態を見極めて、合わない場合は次の案件に移れます。
派遣会社を選ぶ際は、 介護専門で大手 の派遣会社(ベネッセスタイルケア、ニッソーネット、メドフィット等)を優先してください。一般人材派遣会社よりも介護報酬制度・処遇改善加算・職員間の連携に詳しく、トラブル時のフォローも厚めです。
注釈と読み方の補足
- 本稿の年収・時給レンジは厚労省「介護労働実態調査」(令和5年度)、労働者派遣法、2024年度介護報酬改定告示、主要介護転職・派遣エージェントの公開求人データから合成した目安です。実勢は地域・施設規模・派遣会社のマージン率で変動します。
- 派遣会社の手数料率(マージン率)は労働者派遣法で開示義務があり、各社の公式サイトで確認できます。手数料率20〜30%帯が標準で、これより高い派遣会社は時給に対して取り分が大きく、職員側の実質取り分が薄くなります。
- 社会保険料率は2026年4月時点の標準負担額(健康保険10%・厚生年金18.3%・雇用保険0.6%)で計算しています。年度ごとに変更があるため、最新の料率は日本年金機構・全国健康保険協会の公表値を確認してください。
- 処遇改善加算の取り分は法人ごとの分配方式で大きく変動します。詳細は 介護職員等処遇改善加算で月額2万4千円は本当に届いているのか を参照してください。
- キャリアパス全体の設計は 介護士のキャリアパス完全ガイド も合わせて参照してください。
このページの下部にある 診断ツール では、雇用形態・経験年数・夜勤回数・資格を切り替えながら、自分の想定年収レンジを確認できます。正社員と派遣の実質年収を並べて比較する材料として使ってみてください。
主な出典:
- 厚生労働省「介護労働実態調査」(令和5年度公表)
- 厚生労働省「2024年度介護報酬改定」告示および留意事項通知(処遇改善加算の算定率)
- 労働者派遣法および同施行規則(マージン率開示義務、社会保険加入要件)
- 日本年金機構・全国健康保険協会(社会保険料率2026年度)
- 中小企業退職金共済事業本部 公開データ(退職金水準)
- 主要介護派遣会社の公開求人データ(時給レンジ・マージン率)
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