介護士の施設種別年収は約90万円差 — 特養・老健・有料・グループホーム・デイ・訪問の6種類を令和5年調査で分解する
「介護職は給料が低い」と一括りで語られることが多いですが、現場の実感として「全部が同じ」ではないのは働いている人間なら知っています。厚生労働省「令和5年度 介護従事者等処遇状況等調査」と介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」を突き合わせると、勤務先となる6つの主要な施設種別のあいだには 年間でおよそ90万円の差 があります。最も高いのは介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の 約435万円、最も低いのは通所介護(デイサービス)の 約345万円 です。同じ介護福祉士免許を持っていても、どこで働くかで生涯賃金換算 3,000万円超 の差が生まれる計算になります。
ただしこの差は「上を目指せば勝ち」という単純な構造ではありません。2024年度介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられた一方で処遇改善加算は一本化・拡充されるなど、各施設の「稼ぎ方」はここ数年で地殻変動を起こしています。本稿では6施設種別を並べ、年収の絶対値だけでなく、その裏にある介護報酬の構造・運営法人の違い・夜勤有無・業務負荷までを分解します。
6施設種別の年収マップ
最初に全体像を置いておきます。以下は令和5年度処遇状況等調査と令和6年度実態調査をベースに、勤続7〜10年・介護福祉士資格あり・常勤の介護職員を想定した年収目安です。処遇改善加算を含む事業所平均で、役職者(主任・生活相談員・サービス提供責任者)を含む加重平均として読んでください。
| 施設種別(正式名称) | 年収目安 | 月給目安 | 夜勤 | 主な運営法人 | 業務負荷 |
|---|---|---|---|---|---|
| 介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護) | 約435万円 | 約30.5万円 | あり | 株式会社 | 中 |
| 介護老人福祉施設(特養) | 約405万円 | 約28.5万円 | あり | 社会福祉法人 | 高 |
| 介護老人保健施設(老健) | 約400万円 | 約28.0万円 | あり | 医療法人 | 高 |
| 認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | 約365万円 | 約26.0万円 | あり(1ユニット1人夜勤) | 株式会社・医療法人混在 | 中 |
| 訪問介護(ホームヘルプ) | 約355万円 | 約25.5万円 | なし(オンコールは一部あり) | 株式会社中心 | 低〜中 |
| 通所介護(デイサービス) | 約345万円 | 約26.0万円 | なし | 株式会社中心 | 低 |
表を読む時に、最初に引っかかってほしい数字が2つあります。1つ目は、デイサービスの月給(約26.0万円)がグループホームとほぼ同じ だということです。年収が20万円近く差がついているのは、ひとえに夜勤手当の有無が賞与とは別のラインで積み上がっているからです。2つ目は、老健(医療法人運営)が特養(社会福祉法人運営)より低い ことです。一般的なイメージでは「医療法人の方が医療機関に近くて待遇が良さそう」と思われがちですが、数字はむしろ逆になっています。これは介護報酬の包括単価が特養の方がやや手厚く、社会福祉法人の給与表が年功的に積み上がりやすい制度設計になっているためで、後述する「法人格の違い」の話につながります。
6種類の正式名称と役割 — まず制度の地図を描く
介護業界の施設は日常会話では「特養」「老健」と略されますが、介護保険法上の正式な区分は以下の通りです。報酬単価も配置基準もここから決まるので、年収の話に入る前に最低限の制度地図を押さえておきたいところです。
- 介護老人福祉施設(特養): 原則要介護3以上を対象にした長期入所施設です。運営は社会福祉法人に限定されています。介護保険の「施設サービス」区分で、介護報酬は包括単価(日額)で支払われます。
- 介護老人保健施設(老健): 病院と在宅の中間に位置するリハビリ・医療ケア重点の施設です。医療法人が運営することが多く、医師の常勤配置が義務です。こちらも包括単価です。
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム): 認知症高齢者が1ユニット9人で共同生活する地域密着型サービスです。株式会社・医療法人・社会福祉法人の混在で、地域密着型特有の報酬単価が適用されます。
- 特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム): 民間事業者(ほぼ株式会社)が運営する有料老人ホームのうち、特定施設指定を受けた施設です。包括単価で介護報酬が支払われ、入居者からの月額利用料(15〜30万円+入居一時金)との二本立てで収益を立てます。
- 通所介護(デイサービス): 日中だけ利用者が来所する通所型です。送迎・入浴・機能訓練・食事が主軸です。報酬はサービス提供時間(例:7〜8時間)に応じた単価制です。
- 訪問介護: 利用者の自宅を訪問して身体介護・生活援助を行います。報酬は 時間単価制(身体介護30分未満 約255単位など)で、1単位=10.00〜10.90円です。2024年度改定で基本報酬が2〜3%引き下げられ、業界全体に衝撃が走った区分です。
この6つが介護職員の勤務先として圧倒的多数を占めます。有料老人ホームのうち特定施設指定を受けていない「住宅型」はこの表から外していますが、実質的には特定施設と訪問介護の中間のような給与水準になります(外付けで訪問介護・デイサービスを利用者に提供する構造)。
年収差の正体(1) — 介護報酬の構造が違う
年収差の最大の要因は、介護報酬そのものの単価構造です。これを無視して「特養は安定」「有料は稼げる」といったイメージで語ると、2024年度改定後の実態を見誤ります。
包括単価 vs 時間単価
特養・老健・グループホーム・特定施設(有料)は 包括単価 で介護報酬が支払われます。利用者1人あたり1日いくら、という単価で、空床リスクは事業所側が負いますが、満床であれば売上は計算しやすく安定します。特養の場合、多床室・要介護5でおおむね 889単位/日 前後(2024年度改定後、地域区分・各種加算抜きの基本単価)です。1単位=10円換算でベッド1床あたり年間約324万円の収入が立ちます。100床規模の特養なら年間約3.2億円の介護報酬が入る計算で、そのうち人件費率は業界平均で 約63%(介護労働実態調査)です。これが特養介護職員の給与水準の上限を作っています。
一方、訪問介護は 時間単価制 です。身体介護30分以上1時間未満で約394単位、生活援助45分以上で約225単位といった具合に、提供時間に応じて細かく積み上げます。満稼働時の時間あたり売上は特養より高いですが、利用者宅への移動時間に対する報酬が発生しない ため、事業所全体の採算は訪問ヘルパーの移動効率に強く依存します。雪国や過疎地ではこの構造が重く、売上に対する人件費率が70%を超える事業所も珍しくありません。結果として基本給は上げられず、処遇改善加算で底上げして355万円前後に着地する、という構造になっています。
2024年度改定で何が変わったか
2024年度介護報酬改定は、介護業界にとって数年に一度の大きな節目でした。主な変更点を3つ挙げます。
- 処遇改善加算の一本化: 従来別々に存在した「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3本が、2024年6月から「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。最上位区分(新I)の加算率は特養で 24.5%、訪問介護で 14.5% など、サービス種別ごとに傾斜がつけられています。この加算率の差が、そのまま事業所間の給与水準の差に転写されます。
- 訪問介護の基本報酬引き下げ: 身体介護・生活援助ともに基本報酬単位が2〜3%引き下げられました。処遇改善加算の上乗せで「業界全体としては賃上げ方向」と説明されましたが、中小の訪問介護事業所では「基本報酬ダウン」が先に効いて、実際に閉鎖した事業所も出ています(2024年度上半期の訪問介護事業所倒産件数は過去最多を記録)。
- 特定施設(有料老人ホーム)の処遇改善加算率の相対的優位: 特定施設入居者生活介護は処遇改善加算の加算率が比較的高めに設定され、かつ民間株式会社立の柔軟な賞与設計と組み合わさって、このランキングで最上位に来る結果になっています。
訪問介護だけ見ると「2024年度改定は逆風だった」という評価が業界内では支配的ですが、事業所側が訪問回数を増やす方向に動けば、ヘルパー個人の歩合(直行直帰で件数ベース)が上がるケースもあります。報酬構造の変化を個人の年収にどう翻訳するかは、事業所の経営判断と個人の働き方の両方に依存します。
年収差の正体(2) — 運営法人格の違い
2つ目の軸は、運営している法人格です。ここは外から見えにくいですが、同じ「特養」でも社会福祉法人立と株式会社立(※特養は原則社福のみですが、委託運営を挟むケースがあります)では給与カーブの形が異なります。
社会福祉法人 — 安定、但し天井は緩やか
社会福祉法人が運営する特養・デイサービス・グループホームは、年功型の給与表 を持つことが多いです。勤続1年で6,000円昇給、など階段状の昇給が規程で決まっていて、途中で大きなジャンプは起きにくい構造です。その代わり、経営破綻リスクがほぼなく、退職金共済(独立行政法人 福祉医療機構や社会福祉施設職員等退職手当共済)に加入しているため 勤続20年で300〜400万円、30年で600〜750万円 の退職金が期待できます。
給与カーブは「ゆっくり上がって長く続く」型です。20代後半の基本給は株式会社立とあまり変わらないか、むしろ低いくらいですが、40代以降で逆転します。特養の平均年収が405万円と高めに出ているのは、この年功カーブで中堅層が押し上げているためで、若手単体で見ると340〜370万円程度にとどまります。
医療法人 — 老健の給与設計を規定する
老健は介護保険法上、医師の常勤配置が義務付けられており、運営は医療法人がほぼ独占しています。医療法人の給与体系は病院部門に準じた設計をしていることが多く、看護師・リハビリ職との格差を抑えるために介護職の給与を中庸に設定する傾向があります。結果として、老健介護職員の平均年収は特養より 5万円ほど低い400万円前後 に着地します。
一方で、同じ医療法人グループ内の病院・診療所・訪問看護ステーション・通所リハといった他事業所への異動チャンスが開けているのは、医療法人立の強みです。キャリアの横展開を考える人には他の法人格より選択肢が広いでしょう。
株式会社立 — ばらつきが極端に大きい
介護付き有料老人ホーム・デイサービス・訪問介護の多くは株式会社運営で、大手と中小でこれほど差が開く業界も珍しいです。
大手チェーン系(ニチイ学館、セントケア、SOMPOケア、ツクイ、ベネッセスタイルケア 等)は全国展開の規模の経済を効かせつつ、ブランド価値を守るために処遇改善加算を忠実に職員還元している事業所が多いです。ベネッセスタイルケアや SOMPOケアの介護付き有料老人ホームでは、勤続10年の介護福祉士で 年収450〜480万円帯 に届くケースがあります。キャリアパスも「ホーム長→エリアマネージャー→事業部長」と明確で、30代後半で年収600万円超の管理職に到達する人も少なくありません。
対して地場の中小株式会社立事業所は、2024年度改定後の経営圧迫で処遇改善加算の一部を運転資金に回さざるを得ない事業所も増えており、基本給・賞与ともに業界平均を下回るケースが散見されます。経営破綻リスクも現実にあり、特定施設入居者生活介護事業所の倒産は2024年度に過去最多を更新しました(東京商工リサーチ・帝国データバンク集計)。「安定性」と「上限年収」の天秤が、介護業界でも明確に存在していることがわかります。
補足として、特養を運営する社会福祉法人は行政からの強い監督下にあり経営破綻はほぼ起きない 一方で、大手株式会社立の有料老人ホームは好待遇だが法人単位の経営破綻リスクがゼロではありません。安定と報酬のトレードオフは、看護・医療業界と同じ構造で介護業界にも存在しています。
年収差の正体(3) — 夜勤の有無と回数
3つ目の要因は夜勤です。同じ介護福祉士でも、月4回の夜勤を常態としている人と夜勤ゼロの人では、年間80〜120万円の差が出ます。
- 特養: 月4〜5回の夜勤。1回あたり手当 5,000〜8,000円+深夜割増。ユニット型特養では夜勤1人体制(ユニットリーダー不在時)もあり、負担は重いです。
- 老健: 月4〜5回。看護師と組む夜勤体制のため、医療対応の判断を看護師に委ねられる安心感があります。
- グループホーム: 1ユニット1人夜勤 が制度上の標準です。9人の認知症入居者を1人で看る時間帯が8時間続く構造で、月4〜5回。夜勤1回あたり手当は特養よりやや高め(6,000〜9,000円)に設定されている事業所が多いですが、責任の重さは数字に現れません。
- 特定施設(有料老人ホーム): 施設規模次第で月3〜5回。大手チェーンでは看護師常駐+介護複数人の夜勤体制で、グループホームより負担は軽いケースが多いです。
- デイサービス: 夜勤なし。18:00までに利用者送迎を終えれば業務終了が原則です。
- 訪問介護: 夜勤なし。ただし定期巡回・随時対応型訪問介護看護を併設する事業所では、月5〜10回のオンコール待機(1回1,500〜3,000円)が発生することがあります。
特養・老健・グループホームの介護職員の年収のうち、おおむね 60〜100万円は夜勤手当と深夜割増の積み上げ で出来ています。逆に言えば、デイサービス・訪問介護の年収の低さの相当部分は「夜勤がない分」で説明できます。この点は次節の「見落としがちな話」で改めて掘り下げます。
身体的負担 — 数字に出ない疲労度の差
介護業界で年収と同じくらい重要なのが身体的負担です。厚労省の業務負荷調査と介護労働実態調査を総合すると、施設種別の身体介護頻度にははっきりした順序があります。
負担の重い順に、老健 ≧ 特養 > 有料(介護付き) > グループホーム > 訪問介護 > デイサービス、というのが実務者の一致した感覚に近いです。特養・老健はフルケアの要介護4〜5の入居者が中心で、移乗・入浴介助・排泄介助の頻度が最も高くなります。ユニット型特養ではリフト導入が進んできましたが、従来型多床室の施設では依然として人力介助が主流で、腰痛の有訴率(過去1年以内に腰痛経験あり)は 特養介護職員で約75%、デイサービスで 約50% と、介護労働実態調査でも明確な差がつきます。
グループホームは身体介護そのものより「認知症ケアの精神的負担」が主軸で、徘徊・帰宅願望・暴言への対応が日常的に発生します。身体介助の頻度は特養より軽いですが、1人夜勤時の精神的拘束時間は業界内でも最長の部類に入ります。訪問介護は個別訪問で1対1の介護が短時間で完結するため、1日あたりの身体介護時間は特養の半分以下 になることが多いです。その代わり、夏の酷暑・冬の積雪時の移動、入浴介助の一人完結対応、急変時の1人判断といった別種のストレスがあります。
デイサービスは最も身体介護の頻度が低く、機能訓練指導員(PT/OT/看護師)と役割分担しながらレクリエーション・入浴介助を中心に回す構造になっています。このため 40代後半〜50代の介護職員の離職率が最も低いのがデイサービス という結果が、介護労働実態調査で継続して観察されています。「長く働ける」という視点で見ると、年収の低さを相殺する別の価値がここにあります。
見落としがちな話 — 時給換算の逆転現象
ここまでだけ読むと「年収が全て」という結論になりがちですが、介護業界に限って言えば 時給ベースに直した時の景色が大きく違います。この見落としは、特にデイサービス・訪問介護を「安いから避ける」と判断してしまう人に起きやすいです。
デイサービスの年間総労働時間を計算してみます。月22日 × 8時間(日勤所定)= 月176時間、年間 約2,110時間。残業は平均月5〜10時間とされ(介護労働実態調査の所定外労働時間データ)、年間60〜120時間。合計で年間約2,180〜2,230時間 です。年収345万円 ÷ 2,200時間 = 時給約1,568円。
対して特養の常勤介護職員は、夜勤(16時間夜勤を月4回)+ 日勤シフトで月の総労働時間が185〜200時間に積み上がります。年間で約2,300〜2,400時間。年収405万円 ÷ 2,350時間 = 時給約1,723円。差は時給にして150円程度で、年収差(60万円)ほどの開きにはなりません。
さらに訪問介護は登録型ヘルパー(直行直帰・時給制)で働く場合、身体介護の時間単価が1,500〜2,500円 に達します。常勤換算での年収は355万円と特養より低いですが、稼働時間を週20〜25時間に絞った登録ヘルパーの時給は、特養常勤の時給を上回ることが多いです。週末夜間の夜勤に出ない代わりに、平日昼間を効率よく積む働き方が可能で、子育て・介護との両立に向いています。
そしてデイサービスには 土日祝休+祝日営業しない事業所 が一定数存在します。大手チェーンのデイサービスでも、日曜完全休業・土曜午前のみ開所といった事業所があり、こうした事業所で働く場合の 年間休日は120日超(特養・老健は105〜115日前後が多い)です。休日を時給に換算して加味すると、「年収は低いが時間あたり効率は特養より高い」という結果が出ることは珍しくありません。
年収の絶対値で比較するのは粗い議論で、時給・労働時間・年間休日の3軸を並べて比較する と、デイサービスや訪問介護の評価は一段上がります。ここを見落として「給料の高い施設」だけを追いかけると、40代で燃え尽きて離職する — というパターンを現場で何度も見てきました。
キャリアの出口 — 法人格が天井を決める
もう一つ、年収以上に人生設計に効いてくるのが「管理職トラックの構造」です。施設種別と法人格によって、たどり着ける最終役職が違います。
社会福祉法人立 → 施設長ルート: 特養や特別養護老人ホームを複数運営する社会福祉法人では、主任 → 生活相談員/介護支援専門員 → 副施設長 → 施設長、というキャリアパスがほぼ規程通りに進みます。施設長の年収は 550〜700万円帯 が中央値で、勤続20年前後で到達する人が多いです。さらに上の「法人本部(統括施設長・理事)」まで行けば年収700〜900万円ですが、ここは狭き門です。
医療法人立 → 医療介護の横展開: 老健を運営する医療法人は病院・訪問看護ステーション・通所リハを併設していることが多く、介護職の異動経路が広いです。施設長までのカーブは社会福祉法人立とほぼ同じですが、法人本部のポジションに医師・看護師系が多く、介護職出身者が登れる上限はやや低めに出ます。
株式会社立 → エリアマネージャールート: 大手チェーン(ニチイ学館・ツクイ・SOMPOケア・ベネッセスタイルケア等)では、ホーム長 → エリアマネージャー(5〜10拠点担当) → 事業部長、というパスが明確に設計されています。エリアマネージャーの年収は 650〜800万円帯、事業部長で900万円〜1,000万円超に届きます。これは社会福祉法人立の施設長上限を上回る水準で、「介護業界で年収を最大化したい」なら大手株式会社立の管理職トラックが最も上限が高い選択肢になります。
訪問介護 → サービス提供責任者 → 独立開業: 訪問介護の管理職はサービス提供責任者(通称「サ責」)で、常勤換算で年収450〜550万円帯です。さらに数年の経験を積めば、訪問介護事業所の 独立開業 が制度上可能になります(常勤換算2.5人以上の介護職員、1人以上のサービス提供責任者、管理者1名で開設できます)。開業初年度は売上が読みにくいですが、利用者20〜30名を確保できれば経営者年収700〜1,000万円が見えるラインに入ります。介護業界で数少ない「経営者ルート」の入り口です。
個人の選択肢に落とし込む
ここまでの話を踏まえて、現実的に取れる戦略は3パターンです。年齢・体力・家族構成で答えが変わるので、どれか1つが正解ではありません。
(A) 体力最大化戦略 — 20〜30代前半で特養・老健の夜勤を回す 身体が効く時期に夜勤回数を月5〜6回まで積んで、夜勤手当+深夜割増+処遇改善加算の上乗せで年収を最速で上げるパターンです。特養・老健の常勤で勤続5〜7年積めば、年収420〜450万円帯に到達します。ユニットリーダー・主任に早期昇格できれば、30歳で年収470〜500万円も射程に入ります。デメリットは身体への負担が大きく、腰痛・睡眠障害で30代後半以降に続けにくくなるリスクです。長期戦を前提にしないなら割り切れる戦略でもあります。
(B) ワークライフ戦略 — デイサービス・訪問介護で時給と休日を買う 育児・親の介護・副業との両立を優先するなら、デイサービスまたは訪問介護(登録ヘルパー含む)が現実的です。年収は350万円前後に落ちますが、年間休日120日超・夜勤ゼロ・残業少という時間の余裕を手に入れられます。時給換算では特養常勤と数十円しか変わらないケースが多く、「低年収=損」とは限りません。大手チェーン系デイサービス(ツクイ・ベネッセスタイルケア併設型デイ等)を選べば、処遇改善加算の還元率も安定しています。
(C) キャリア志向 — 大手株式会社立の有料老人ホームで管理職トラックに乗る 介護業界で年収の上限を最大化したいなら、大手株式会社立(SOMPOケア・ベネッセスタイルケア・ツクイ・ニチイ学館等)の介護付き有料老人ホームで5〜7年経験を積み、ホーム長 → エリアマネージャーの道を取りに行くのが最短ルートです。30代後半で年収600万円超、40代で700〜800万円帯に届く可能性があります。経営破綻リスクを警戒するなら、法人の財務諸表(上場企業は公開)をチェックしてから転職を決めるのが合理的です。
どのルートも、最初の一歩は「自分の現在地を知ること」から始まります。今の事業所の給与水準が、同じ施設種別・同じ地域の平均と比べて高いのか低いのか、それを知らないまま年数を重ねるのが最大の機会損失になります。
注釈と読み方の補足
最後に、この記事の数字を読む時の注意点を残しておきます。
- 本稿の年収目安は 勤続7〜10年・介護福祉士資格あり・常勤 を想定した加重平均で、処遇改善加算込みの実績ベースです。無資格・勤続3年未満の数字はいずれの施設種別でも30〜50万円低く出ます。
- 令和5年度処遇状況等調査は 処遇改善加算を算定している事業所 のみを対象にしており、加算を算定していない小規模事業所は集計から漏れています。業界全体の中央値はもう少し下振れしている可能性があります。
- 有料老人ホームの年収は施設グレードによる振れ幅が最も大きく、富裕層向け(月額利用料30万円超)の施設と、月額15万円前後の施設では同じ介護職員でも年収で100万円近い差が出ます。本稿の435万円はあくまで特定施設入居者生活介護の全体平均に近い値として置いています。
- 2024年度介護報酬改定の影響(特に訪問介護の基本報酬引き下げ)は2026年4月現在もまだ業界内で消化中で、2025年度の最新調査値が出揃うと数字は若干動く可能性があります。最新値は厚労省 e-Stat と介護労働安定センターの各年度調査で確認できます。
このページの下部にある 年収診断ツール では、施設種別・経験年数・資格・都道府県を入力することで、自分の現在年収が令和5年度調査と比べてどの位置にあるかを確認できます。平均値を自分の数字として読み替えるための補助として使ってもらえれば十分役に立つはずです。
「平均」を超えて、自分が働く施設の数字を知る
本稿は公開統計ベースの平均像です。施設種別ごとの年収90万円差が 今この瞬間どの事業所で何万円に化けているか は、運営法人の財務状況・処遇改善加算の区分・夜勤回数・地域の需給で日々変わっています。求人票の月給だけでは、施設間の本当の格差は見えません。
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主な出典:
- 厚生労働省「令和5年度 介護従事者等処遇状況等調査」(2024年公表、e-Stat)
- 介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」(事業所調査・労働者調査)
- 厚生労働省「2024年度介護報酬改定 介護給付費単位数等サービスコード表」
- 厚生労働省「令和5年 介護サービス施設・事業所調査」
- 東京商工リサーチ・帝国データバンク「介護事業者倒産動向調査」(2024年度分)
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